2010年4月3日土曜日

人知への挑戦

去る4月2日,こんなセンセーショナルなニュースがtwitter上で,Webニュース上で飛び交いまいた.

情報処理学会が日本将棋連盟に「コンピュータ将棋」で挑戦状

ついに将棋もここまで来たか,という気分です.私が学部生のころきいたときは,アマチュアとならいけるが,まだプロとは,というくらいのことをいっていたように記憶していますから,この数年でここまで伸びたのかと思うとすごい.単にそれはマシンパワーが増大しただけではなくて,新しいアルゴリズムの開発や,それ以上に地味な工夫の繰り返しだったんではないかと推測します.いくら「解」の存在するゲームとはいえ,それは指数関数の先の遙か遠くにある解.単なる物量で近づける距離ではないはず.


人間へ挑戦の先駆者といえば,IBMのディープ・ブルーですよね.もちろん(?),IBMも黙っていません.

IBM - Research: Jeopardy!
IBM's Jeopardy-playing machine can now beat human contestants

ジョパディーというのは,アメリカで放映されているご長寿クイズ番組だそうです.IBMの研究所はこれにたいしてコンピュータで立ち向かいます.自然言語処理用語でいえば,質問応答です.この問題はチェスで人間を負かすことよりも遙かに「コンピュータにとって」難しいことです.質問応答の研究は,それこそ古くからあったわけですが,大きな成果につながったというような話はあまり聞きません.有名どころだと,Powersetでしょうか.しかし,リリースされたときの周囲の反応は案外冷ややかでした.国内だとgooラボで自然言語検索というサービスが一時ありました.いつしか公開を辞めてしまいましたね.

私は自然言語処理の究極的な目標をあげろと聞かれたら,機械翻訳とこの質問応答だと答えることにしています.質問応答は情報検索のその先にあります.それは単にデータの収集と検索にとどまらず,質問を理解し,文書を探し,推論し,答えを見つけ,適切に答える必要があります.私の知る限りこれらの一連の要求に対して有効な手法が確立されていません.そのため,この挑戦は非常にチャレンジング,というか無謀ともいえます.

私はかねてよりこうした挑戦を期待していました.自然言語処理をはじめとする応用よりの研究は,理論と現実とのギャップが大きいように感じます.私は大学院のときに検索をやっていたのですが,そのとき感じた印象は,一つのシンプルなモデルでは解けず,小さな些末な問題が山のようにあり,それを一つ一つつぶしていかないと全体の問題は解けない,ということでした.その中で自分の提案する方法がどれくらい貢献できるかというと,それは非常に小さく,こうした応用の研究は大人数の総力戦で挑まねばならないと痛感したものです.
そのため,大きな研究グループが,本気で未解決の応用に取り組んだらどうなるか? これは非常に興味があります.こうした挑戦はそれなりの覚悟と投資が必要です.今,人間のエキスパートレベルの質問応答が実現できるかときかれたら,NOと答えるでしょう.まだ,そういう段階ではないのです.でも,本気で,それも特定のジョパディーというタスクに特化したら,ひょっとして・・・.実際のテレビ放映での対戦でコンピュータが人間に勝てるのか,非常に注目すべき挑戦だと思います.

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